ことば試着室
〜「自分に正直だから風変わりになる」の巻〜
2009.1.11up(2008.5.1作)
「ことば試着室」へようこそ。


このあいだは、私が少年〜青年時代に
「人と違うことをやってナンボだ」と考えていた話を書きましたが、
その続編だと思って読んでいただければ、と思います。


チャールズ・アイヴズ(1874〜1954)という
現代音楽の作曲家がいます。
存命中はほとんど無視され、
死後、高く評価されるようになった作曲家です。
なんでも本業では保険会社を設立し、
副社長としてビジネスで成功したとのことです。
作曲は趣味でやっていたそうです。

私がアイヴズを知ったのは、
学生時代の「音楽美学」の講義ででした。
このときの講義のテーマは
「音楽と音楽でないものの違いは何か?」みたいなもので、
毎回あまりにわけが分からない音楽ばかり聴かされるので、
受講者には評判が悪かったようでしたが、
私は個人的にものすごく興味津々で、
講義をとても楽しみにしていました。

アイヴズは「曲が盛り上がってくると、
既成のよく知られたアメリカ民謡、歌曲、讃美歌のメロディを引用して
そのコラージュでクライマックスをつくる作曲家だ」という位置づけで
紹介されていて、
講義で実際にその作品を聴き、「これはいい!」と興奮した私は、
秋葉原の輸入レコード店に行き
(そこら辺のレコード店では売っていなかったので)、
一度に3枚も買ってみましたが、
家で聴いてみると、さすがに難解でわけが分からず、
一度に3枚、というのも重く、
愛聴するには程遠い状態で
レコード棚に温存されたまま現在に至っています。

さて、そんな私とアイヴズの思い出を語ったところで
今回のご試着です。


自分に非常に近いものを感じるのは、アイヴスだね。
その理由は、自分が望むものを引き出すには、
どうしてもエキセントリックにならざるを得ないというところだね。


          (『キース・ジャレット音楽のすべてを語る』より引用)


アイヴズは、自分の理想の音楽を追求していたのでは
生計が成り立たないと思い、
保険会社に就職したそうです。
逆に言えば、保険会社で生計を立てることができたので、
彼の理想の音楽を追求できた、ということでしょうか。

あるピアノ曲を作曲したときに、彼は
10本の指では押さえることのできない和音を書いてしまい、
そこを指摘されて、
「指が10本しかないのは、私のせいではない」
「耳にきこえてきた音を、
とにかく書いた結果なんだ」と語ったそうです。

彼は、自分の曲が演奏されることは眼中になく、
とにかく自分が書きたい曲を書きたくて
書いていたのではないかと思いますが、
そのおかげでエキセントリックな(風変わりな)ことに
なってしまったのでしょう。

つまり、最初から変わったことがやりたかったわけではないのですね。
エキセントリックになったのは結果に過ぎないのです。

彼は、子供時代に音楽を教えてくれた父への思い出をなぞりながら
曲を書いていたそうですが、
だからアメリカ民謡や歌曲や賛美歌のコラージュが
曲のクライマックスにくるのですね。
本当に、変わったことがやりたかったわけじゃなく、
正直なだけだったんだ、と。


・・・ということで、
今日のご試着は、お気に召しましたでしょうか?

・・・ええ、じっくり味わってみたけれど、
お気に召さないってことも、ありますから、大丈夫。

次のご試着をお楽しみに!

ことばと子育ての相談室「わかばルーム」 ホームへ

Mail