幸せな子育ての八十八段(1)
2010.2.18up
岡山県の倉敷というところには、
昔の街並みを残した美観地区があります。

昨年の夏の帰省時に、ちょっと思い立って、
久しぶりに、その倉敷に遊びに行ってみたら、
仲良く手をつないでいる親子をあまりにたくさん見かけるので、
その「手をつないでいる」ってあたりまえのことなのに、
でも、こんなにたくさんの親子が仲良さそうにしているのって、
都心部ではあまり見かけていなかったことに気が付いて、
少々、不思議さを感じました。

「なんだか、このあたりの人たちは、
子育ての感覚が違うような気がする。
何が違うんだろう?」などと、ぐるぐる考えながら歩いているうちに、
美観地区の北側にある「阿智神社」の前にさしかかりました。

阿智神社は小高い山の上にあって、境内に登るには、
まず88段の石段を登り、
その登ったところのちょっと右に折れたところから
再び始まる61段の石段も登り、
さらにそのすぐ先にある33段の石段も
登っていかなくてはなりません。

それなりに角度のある石段なので、
特に88段の石段は、体力的にもきついですが、
高さを感じさせもするので、少々恐い気もしてきます。

おまけにその日は暑かったので、ためらいを感じつつも、
「しかしまあ、せっかくだから」と、
汗だくになることを覚悟して、お参りしてみようと、
私は自分をその気にさせました。

88段を登り始めようか・・・と、
私が鳥居に向かう路地に入ったとき、
その左側から私のすぐ後ろになるように、
お父さんとお母さんと5歳くらいの女の子が
同じ路地に入って、近付いてきました。
そしてなにやら、お父さんとお母さんは、2人して、
私の10メートルくらい前を歩いていた人が
石段を登り始めたのを指して、
「ほら!あの人!凛々しいなあ、カッコいいなあ」と言って
はしゃいでいるのでした。
不可思議な状況でしたが、私はすぐに何が起きているのかを理解しました。
どうやら、石段を登ることにあまり乗り気ではない娘をその気にさせるために、
先に登っていく人に注目させては、「ああいうのは凛々しく、カッコいいのだ」と
しきりに“洗脳”みたいなことをする作戦中のようでした。(笑)

おかげで、引き続き、
その親子のほんの少し前に石段を登り始めた私についても、
御多分に漏れず、「凛々しい」「カッコいい」と
絶賛していただきました。(笑)

しかしまあ、この一連の状況からして、
「こんなやり方で子どもは納得しないだろうよ・・・」と、
内心、私はネガティブな予測を立てていました。

でも、次の瞬間、うれしくも私の予測は裏切られることになりました。
なんと、その女の子は、
私から2〜3段くらい遅れて、
「あ〜、しんどい、しんどい!」と愚痴りながら
勢いよく登り始めたのです!!

さらに驚いたことに、このお父さんとお母さんは、
娘の「しんどい、しんどい!」という愚痴に対して、間髪いれず、
いつもそうやっているかのように、二人でみごとに声をそろえて
「うん、しんどいね!」と明るく受け止めたのです!!!

「なんだ、なんだ?この親子、抱っこ法を知っているんだろうか?」と
私は、この意外な場所での、あまりに突然の出来事に
うれしい衝撃を受けました。


子どもはしばしば、子どもを正しい方向に導こうとする親の要求を
嫌がってしまうことがあります。
でもそれは、子どもの本心ではないので、できることなら、
「やらなくていい」とあきらめてしまうのではなくて、
親が子どもの“気持ち”に寄り添いつつも、
子どもが、イヤな気持ちを乗り越えて
おにいさんおねえさんらしく振舞える方向へ、“行動”を手助けしてあげて、
ちゃんと親の要求をききわけられるような結果にたどり着ければ、
(親だけでなく)親子共々、うれしい気分になるものです。

しかし、子どもが無理矢理、大人に説き伏せられるなどして、
自分の“気持ち”を抑え込んで、言うことをきいてしまったら、
子どもはうれしくなりそうにありません。

あるいは、親が子どもにききわけてもらうことをあきらめてしまったら、
親は、もちろんうれしいことにはなりませんが、
よくよく観察してみたら、実は、こういうのって子どもの方も、
自分の思いが叶ったのにもかかわらず、
なんだかあと味が悪いことになっているものです。

そこらあたりの機微は、なかなか悩ましいものがある場合が多くて、
このような“ききわけ”をめぐるご相談も、
わかばルームで数多くお受けしている次第なのですが・・・


しかし、この親子の場合、わかばルームなどとは全く無縁に、
気兼ねなく「しんどい、しんどい!」と訴えながらききわける子どもと、
「うん、しんどいね!」のことばが
こんなにあたりまえのように出てくるご両親との関係ができていて、
さらにそれって、何かを気を付けてやっているわけではなく、
なんだかそういう雰囲気に自然になっている感じで、
日々のききわけを、むしろ楽しんでいるような気さえしました。

それというのも、この親子、石段を登りきった境内でも、
再び素敵な場面を私に見せてくれたのです。

境内には、見晴らしの良い「絵馬殿」というところがあって、
そこで倉敷の古い町並みを眺めながら、休憩ができるようになっています。
その絵馬殿で、どういういきさつでそういう状態になったのか、
私は知りませんでしたが、なぜかその女の子は、
椅子に座って休んでいるお父さんお母さんから
少し離れたところに立っていました。

お父さん「○○ちゃん、こっちおいで」
女の子「シュッシュしないで」

何のことやら分かりませんが、
シチュエーションからして想像するに恐らく
「シュッシュ」とは、虫除けスプレーとか
スプレー式消炎鎮痛剤とかのことでしょうか?

お父さん「うん、シュッシュしないよ」と言って、女の子に近付くと、
女の子は「シュッシュしないで〜」と言って、逃げ出しました。
お父さん「シュッシュしないよっ」とニコニコ言って、さらに近付き、
そして、ついに絵馬殿に設置されているテーブルの周りを
ぐるぐるまわる追いかけ遊びになって、
またさらにそれが、境内全体を使った追いかけ遊びにまで
発展しちゃいました。
女の子「シュッシュしないで〜」
お父さん「シュッシュしないってば!」
2人でキャーって、遊んでました。

お父さんは、恐らく誰かに習ったわけではないと思うのですが、
当たり前に子どものダダこねを楽しんでいる感じでした。
女の子は、追いかけて欲しくて、期待を込めて、
少し離れたところに立っていたんですね。
お父さんは「シュッシュしない」と言っているだから、シュッシュされないのに、
「シュッシュしないで〜」と言って逃げて、追いかけ遊びを始めるなんて、
女の子は、そんな甘え方を日ごろから楽しんでいることが窺われました。
そして、私は、それに楽しそうにずっと付き合っているお父さんのおおらかさを感じて、
正直言って、「こんな感じ、本当に自然状態でこの世にあるんだなあ」と、
こともあろうに、そう思ってしまいました。


「いやー、素敵な親子を見ちゃった」と
思わず得したほんわかいい気分になって、そろそろ帰ろう、と
私は、境内から石段を降りて行き、
いよいよ88段の終わりに差し掛かかろうというところで、
さらに他の親子のダメ押しに遭遇することとなりました。

それは、親戚一同と思しき7〜8人の一番後ろで
お父さんと手をつないだ3歳くらいの男の子が
ちょうど88段の第一段目に乗っかったところでした。

男の子は急に恐くなったのか、思い直したかのように立ち止まり、
「抱っこ〜」とお父さんに催促しました。
私は、「あ、これはお父さんが断ったら、ひと泣きくるぞ」と
経験的に直感しました。
こんなところで、子どもに泣かれたら、お父さんは困るだろうなあ、と、
これから起こりそうな気の毒な状況から、目を逸らしたい気分になりました。

しかし、私の首都圏でのセラピーの経験からくる予測は、
この石段では通用しないことを、
まもなく私は思い知ることとなりました。

お父さんは「え〜っ、抱っこ〜?」と言いながら、
男の子をその場で抱っこしてしまいました。
私は「ああ、子どもの言いなりになってしまうのか・・・、
でも、それしかないよな、しょうがないよな」と思いました。
しかし、お父さんは、ほんの3秒くらいで
「・・・でも、自分で歩け!」と言って、男の子を抱っこから、
もとの第一段目に降ろしてしまいました。

すると、びっくりしたことに、その男の子は、その途端、
「よいしょ、よいしょ」と言いながら、
うそみたいな勢いでどんどん石段を登り始めたのです!!
こんなに短い抱っこで、気持ちを切り替えられるなんて、すごいです。
またしても衝撃を受けました。

抱っこ法で、日頃から自分たちの気持ちのお世話を続けている親子なら
これはあり得ることだと思いますが、
「抱っこ法は、現代人が忘れかけている
昔ながらの当たり前の子育てをやろうとしているだけ」という視点から考えると、
どうも、この石段には、抱っこ法など知らなくとも、
なんとなく昔ながらの当たり前の子育てを知っている親子が
集まってきているような気がしてきました。
というのも、そもそも、子どもを日ごろからききわけさせるのに慣れていなければ、
こんなすごい石段を親子で登ろうなんて思わないでしょうから(笑)。

その日は、倉敷から実家への帰りの電車の車窓からも、
とある駅のホームで電車が走り去るところを見たがる2歳くらいの女の子を、
急いで行こうとせずに、一旦立ち止まり、
危なくないように、しゃがんでうしろから抱きとめながら
一緒に見ているおばあちゃん、
その拘束を嫌がらずに、むしろ安心して落ち着いている子ども、
そのまたそれを、遠くからやさしく見守る駅員さんの姿も、目撃してしまい、
やっぱり、この付近に住んでいる人たちは、首都圏の人たちと違う感覚で
子育てをしているのではないか?と感じました。


(2)につづく
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