「ことば試着室」へようこそ。
障害のあるなしに関わらず、 子どもにはみんなそれぞれいろんな才能があって、 そして世の中には その才能を開花させることができるいろんな方法があるようですが (既成の方法ではなく、自分でなんとなく開花させてしまう人もいるようですが)、 その子が自分の才能を開花させる方法や指導者と出会えるかどうかは、 偶然というか、運というか、 なんともコントロールし難い要素によっても左右されているような気がします。
"どうやったら分かりやすく教えられるか?” "どうやったら効率よく伸ばすことができるのか?”と、 例えば、読み書きや算数について 本やインターネットを調べてみたら 我々はすでに実にいろんな方法と 出会うことができるようになっているようです。 方法論というか指導法というか、そういうものについては まだまだいくつ増えてもありがたいものではありますが、 すでにある程度は、研究・開発されてきているところはあるようですね。 つまり、"学ばせる”“学ぶ”方法はたくさんあるということです。
しかし、「何を学びたいか?」とか 「将来何をしたいのか?」がよく分かっていない時点で、 「じゃあ、何をどのように誰に学べば 自分の才能を開花させることができるのか?」を 見つけていく方法ってあるのかというと、 そのあたりの出会いは やはり偶然まかせというところがあるように思います。 そこを見つける方法があるのなら、 私だって苦労してないと思いますし。(笑)
この点に関して努力できることといえば、 せいぜい「宝くじをいっぱい買うと当たる確率も高くなる」みたいなもので、 できるだけいろんなことを試してみるくらいですか?
でも、「いろんなこと」と言っても、 あまりいろいろやりすぎると疲れちゃって、 もう自分の才能を開花させる気力もなくなるかもしれないですよね。 それなら、要は、好きなことをやればいいんだよ、ということかもしれませんし。
そのあたりの、 人生をやっていくにあたって 本当はとても大事かもしれないこの問題の解明については、 言語聴覚療法や心理学の分野ではなくて、 是非、教育学の分野で取り扱っていただきたい気が私はするのですが、 なんだかんだ言って偶然とか運だったら占い師が専門のような気もしますよね。 でも、占いではなくて経験則から 運について研究してくれている方もおられるのですよ。 それはなんと、いわゆる“勝負師”、棋士の方であります。
そこで、今回のご試着です。
さて、ここでどうするか。 次の一手が大事である。 同じ年頃の息子をお持ちの読者は、一度本を閉じて、 私の立場で考えていただきたい。 次の一手で息子の将来、我が家の空気といったものが大きく変わるのだ。 父親、亭主としてどうすべきか。
いきなり殴りつけるのも一策、説教をするのも一策である。 しかし、最も大切なことは、 勝利の女神が、それをよしとするか否かだ。 私の対応、教育方針、米長家の雰囲気、 それらを勝利の女神が好ましいと判断し、 微笑んでくれなければならない。
女神の判断基準は二つである。 それ以外のことに彼女はおそらく目を向けない。 これは勝負師としての経験から言って、 まず間違いのないところだ。
一つは、いかなる局面においても 「自分が絶対に正しい」と思ってはならないということだ。 謙虚でなければならない。 どんなに自信があっても、それを絶対と思い込んで発言してはならない。 この場合なら、息子のしたことが悪いことで、 父親たる私が正しく指導するというスタンスは、女神の不興を買う。
もう一つは、笑いがなければならない、ということだ。 どんなにきちんと正しく身を処していても、 その過程でまったく笑いがない場合には、どこかで破綻が生じる。 少なくとも大成、大勝することはない。
勝利の女神に関するこの二つの考え方は、 私の勝負哲学というより、人生哲学なのだ。
(米長邦雄『運を育てる』より引用)
米長邦雄さんは、プロの将棋の世界で多くのタイトルを獲得しつつも、 「名人位」というタイトルだけは制することができず、 それでも7度目の挑戦、50歳にして史上最年長の名人となられた方です。
ちょっと前まで、東京都教育委員もされていて、 その発言がいろんなところで批判を浴びているようです。 私にしても、その頃の発言について ちょっとどうなんだろうかと思うところがありますし、 それまでの著作を読んでみても、 賛同しかねるところも時々あります。
私は、それは多分、米長さんが 厳しい勝負の世界で生きてこられた方だからではないかと思っています。
しかし、そのあたりのことには目をつむって読んでいくと、 とても示唆に富む話が多くて、 私は、20歳台後半に米長さんの本を読みあさりました。 でも正直、人によっては 「全面的に賛同し兼ねる」ということもありそうですけど。
ま、そもそも、「謙虚さ」と「笑い」を大事にされている方であるので、 飛び交う批判に比べると はるかにあたたかい方だとは思うのですけれどね。
「将棋で勝つためには、 日頃から脳みそが汗をかくくらい将棋のことを考えなくてはいけない、 努力は絶対に必要だ。 でも、相手も自分に負けないくらいやってきているのだから、 最後の最後は、勝ち負けが運に左右されるところが大きい、 だから、運についての研究を始めた」と、 米長さんが運の研究に至る経緯を私がまとめると そんなことだったと思いますが、 米長さんご自身や、周囲のプロ棋士の勝敗や昇格が いかに運によって左右されてきたのか、 そして運を味方にするにはどうすればいいのかを、 米長さんが数多い経験から解き明かしてくれていますよ。
あっ、某“本の通販サイト”のレヴューみたいになってしまいましたね。(笑)
・・・ということで、 今日のご試着は、お気に召しましたでしょうか?
・・・ええ、じっくり味わってみたけれど、 お気に召さないってことも、ありますから、大丈夫。
次のご試着をお楽しみに!
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