2007年10月3日、厚生労働省で、向精神薬「リタリン」について、 乱用被害が広がっていることから、 リタリンを処方できる医師や医療機関を登録制にして 流通を制限するという決定がなされました。
リタリンは、1990年代のアメリカで、 さかんにAD/HDの治療薬として用いられてきましたが (「治療薬」と言っても、服用後の数時間、 落ち着いていられるようになる、というようなことなのですが)、 アメリカの場合、AD/HD児を発見すると、1人当たり年間400ドルのお金を 学校は受け取ることができるという制度もできたため、 1995年には、 全米の6~14歳の子どもの10~12%(!)の子どもがAD/HDと診断され、 メチルフェニデート(リタリンの主成分)を処方されているという報告が 国連機関であるINCBによりなされたそうです。
さらに、リタリンを処方されている子どもからクラスメートに 「これを飲めばハイになれる」ということで、リタリンが売買されることも起こりだし、 また、大人がリタリンを飲むと、3晩寝ずに仕事がバリバリこなせるようになるというので、 保健室の棚からちょっと失敬してみる先生や 子どものリタリンを飲んでみる親が現れだし、 リタリンの乱用がアメリカの社会問題となっていったそうです。 そして2006年2月には、 FDA(米食品医薬品局)の薬物安全リスク管理諮問委員会というところが、 リタリンの副作用として「突然死や心臓障害などの危険が増す可能性がある」 という警告を添付すべきだと勧告したこともあり、 アメリカでのリタリンの服用は下火になってきたとのことです。
日本では、これまでリタリンは 難治性うつ病やナルコレプシー(睡眠障害)には認可されていたものの、 AD/HDの薬としては認可されずに、保険外で処方される薬ということになっていました。 1970年代には、 すでにリタリンにヘロイン並みの強い依存性があるという危険が指摘されていて、 禁止している国もあるくらいなので、 日本でのこの取り扱いは、十分ありうることだという気がします。 そのためか、日本ではこれまでアメリカほどこの薬が AD/HDの治療薬として普及してこなかったようです。 反面、一部でリタリンをAD/HDではない 学習障害や不登校といった診断名(?)のもとに処方したり、 アメリカでも禁じられている6歳未満の子どもに処方したりしていることもあるという、 厚生労働省による日本の公立病院での調査報告がなされてきました。 現時点で、すでに製造・販売元の会社が 乱用防止のため適応症からうつ病も削除する方針を決めているので、 今後、リタリンは、診断に脳波や血液の精密検査が必要な ナルコレプシーのみに処方される薬になるようです。
実は、同日の10月3日、リタリンとは別に、 「コンサータ」という薬が、日本国内初のAD/HD治療薬として認可される予定でした。 コンサータは、リタリンと同じ塩酸メチルフェニデートを主成分とする薬であるのですが、 これについても厚生労働省は、安全性や有効性を認めつつも、 「リタリンと共に流通・管理体制を検討する必要がある」として、 製造販売の承認を留保したとのことです。
コンサータが、昨今のリタリンをめぐる国内の数々の事件を経ずに認可されていれば、 ずいぶん発達障害をめぐる療育や教育の世界も変化することになったのだろうと思います。 コンサータの承認は、特別支援教育の今後や、 発達障害者支援法のめざす「障害の早期診断・療育・教育」を進めていくにあたり 追い風になるはずのものであったと思います。 リタリンやコンサータについて、ここではネガティブなことばかりを書き連ねてしまいましたが、 リタリンを本当に必要としていて、適切な処方を受けている人もいるわけで、 薬が悪いわけではなくて、それを処方する人の問題のせいで 不便な思いや不安な思いを抱えなくてはいけなくなる方が増えることは 残念なことであるとも感じます。
コンサータに続き、 「ストラテラ」というAD/HD治療薬の認可をめぐっての動きもあるようですが、 それにしても、私たちは人類始まって以来、 初めて持ち始めた人間の捉え方であるところの「軽度発達障害」について、 もっといろんな立場の人のいろんな角度の意見を尊重しながら賛否両論を交えて 慎重に考えていった方が良いのではないかという気がしてなりません。 できるだけまとめて書こうと努めたので、 細かく書けませんでしたが、この一文のあちこちにでさえ、 この一連の出来事のひっかかりどころが見え隠れしているような気がします・・・。
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